雪割草
「美枝子、ここからはあまり他人の目を気にするなよ」

 シローはリヤカーを引きながら、真っ直ぐ前を見て言った。

美枝子は小さく頷くと、荷台を押す手に力を入れた。

 だが、予想していた以上に、男女でリヤカーを引く光景はやけに目立ってしまい、周りからは冷たい視線で見下されているのを感じた。

゛俺だけならまだしも、美枝子にはこんな想いをさせたくなかったのに……。゛

 シローの肩が微かに震えていた。

 欲望と快楽が渦巻く都会の中で、ホームレスの夫婦はあまりにも無防備であった。

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