雪割草
「シローちゃん!シローちゃん、大丈夫!」

 頬をすり寄せながら美枝子は叫んだ。

「あぁ。大丈夫だ。悪いけど起こしてくれ」

 美枝子の肩を借りて、痛みをこらえながら起き上がろうとした。

「痛ったった……。くっそー!」

 シローは新宿という街に来て、初めて怒りというものを露わにした。
やがて、その怒りは憤りへと変わっていき、自分の不甲斐なさを思い知った。

それにも増して辛かったのは、美枝子の前で情けない姿を見せてしまったという事だった。

「そろそろ、帰ろうか……。」

 シローは残りの段ボールを荷台に積むと、リヤカーのハンドルを跨いだ。

「行こう……。美枝子」

 深い溜め息と共に、緩慢な足取りでリヤカーを引き始めた。

激しい耳鳴りにかぶさり、後ろを歩く美枝子のすすり泣く声が聞こえていた……。

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