雪割草
 結局、美枝子は見つからなかった。

手掛かりさえも掴めなかった。

 昼を過ぎた頃には、皆仕事に出て行ってしまった。

シローは一人段ボールハウスに残り、自分の腕を枕に、ぼんやりと外を眺めていた。

芝生の上には踏み潰された空き缶が、ゆらゆらと北風に揺らされていた。

脱力感が体中を支配していた。

シローの体は中身の無い、あの誰かに踏まれた空き缶だった。

見かねたニシヤンが訪れ、

「何か食わねえと、体に毒だぞ」

 そう言って茹でたジャガイモを置いていってくれた。

少し皮が捲れたジャガイモを見ていると、また美枝子の事を思い出し、涙が零れ落ちてきた。

あの頃に戻れるならば……。

もう一度、美枝子に会って謝りたいと願っていた。

それからというもの、シローは家からも出ずに、仕事もしないで暮らした。

その暗くて長いトンネルに、出口があるとは思えなかった。

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