雪割草
第十四章~楓
 別れの朝は大抵の場合、雨がつきものだ。

しかし、今日に限っては、それは良い意味で裏切られていた。

秋晴れの空は澄み渡り、白いクレパスで描いたような飛行機雲が浮かび上がっている。

そんな朝だった。

 新宿中央公園の住人達は、引っ越しの荷造りやら運搬やらで右往左往としていた。

段ボールハウスが消えた公園の中は案外広々としていて、殺風景にさえ映っていた。

それを横目にシローは一人、公衆トイレの壁にもたれかかり俯いていた。

「シローさん!」

 毛布を小脇に抱えながら、ニシヤンが通りかかった。

シローは顔を上げ、

「大変そうだな!手伝おうか?」

 と声をかけた。

「大丈夫だよ。もうこれで終わりだ」

 そう言って立ち止まり、

「シローさん、ごめんな」

「えっ!何が?」

「シローさんを一人、置いて行っちまうみたいで」

 ニシヤンは眉間にシワを寄せた。

「何言ってんだよ。気にするなよ、そんな事……。
まあ、そのうち落ち着いたら、ニシヤン達のアパートに遊びに行くからさ」

 シローは左手を差し出した。

「あぁ、待ってるよ」

 ニシヤンも左手を差し出し、二人は強く握手を交わした。

心の内側を悟られないよう、笑顔に務めていた。

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