雪割草
 青く生い茂った芝生の上で、二人は再会した。

 シローは美枝子に駆け寄ると、両膝に手をつき肩で息をしながら言った。

「ごめんな、美枝子!」

 速まる鼓動を抑えきれず、うまく話せているのか判らなかった。

「何を言ってるの。私の方こそ、ごめんなさい。黙って出て行ってしまって……。」

 斜めに下げた表情に、太陽が影を作っている。
 
シローは両手を膝につけたまま、見上げるようにして視線を絡ませた。

「いったい……。一体何処に行ってたんだ?」

「うん……。」

 美枝子の一言に、シローはゴクン、とつばを飲み込んだ。

「あのねーー知り合いの家を一軒一軒廻ってお金を借りてきたの」

 後ろに隠し持っていたくしゃくしゃのお札を取り出し、そっとシローに手渡した。

「えっ……。」

 シローは一瞬戸惑った。

 手のひらの中に収まった、二万二千円を凝視した。

俺達に……。

こんな俺達みたいな者に、お金を貸してくれる人などいるんだろうか……。

 喉元まで出かけた疑問をすぐに飲み込んだ。

今、それを訊いてしまったら、また美枝子が遠くへ行ってしまいそうな……。

そんな気がした……。
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