雪割草
 「ほら!シローちゃん。みんなに遅れるわ。急いで荷造りをしましょう」

 そう言って、美枝子は手を差し伸べた。

見慣れないシャツを着た彼女は、安堵の笑みを見せていた。

ゆっくり頷き、シローは美枝子の手を取った。

とても温かった……。

久しぶりの美枝子の温もりに触れ、二度とこの手を離さないと心に誓っていた。

「さあ、私達の番よ」

 美枝子に導かれるように歩き出し、寄り添いながら肩を並べた。

公園の芝生がより一層青く見えていた。

竹中の元へ行き、アパートまでの地図を受け取ると、荷造りをしてからみんなの後を追いかけた。

 地図によると、そのアパートは新宿中央公園から西に二キロ程行った、甲州街道と山手通りが交差する辺りにあるらしい。

 段ボールハウスの人達は甲州街道の沿道を、リヤカーの荷台に荷物を載せ、その場所へと向かって行った。

シローと美枝子も最後尾に位置して歩いた。

七台のリヤカーが縦一列に行進する様子は、とても異様な光景でもあった。

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