雪割草
 街路樹からは落ち葉の雨が降っていた。

シローはリヤカーを引きながら、歩道に積もった落ち葉を踏みしめて歩いた。

美枝子の方は、荷台の端に後ろ向きでちょこんと座り、足をぶらつかせながら柔らかい秋の風を感じていた。

「ねえ、シローちゃん!新しいお家は畳かな?それとも、フローリングかな?」

 嬉しそうに尋ねてきた。

「さあな、どっちでもいいんじゃないか」

 シローが応えると、

「えーっ。私は畳がいいなあ。真新しい畳の匂いって良いわよねー」

 目を閉じながら、大きく深呼吸をした。

新しい穏やかな生活が、すぐそこに始まろうとしていた。

「あのさー、美枝子!」

 今度はシローが尋ねた。

「なに?」

 まだ、目を閉じている。

「いやっ、何でもない。いいや!」

「へんなの……。」

 ポツリと零した。

 次第にシローの額には汗が滲み出てきた。

それでも、一生懸命リヤカーを引き続けた。

「俺!美枝子が帰って来てくれて嬉しいよ!」

 少し照れくさそうに言った。

「馬鹿ねー。私にはシローちゃんと、ずっと離れて暮らすなんて考えられないわ!」

 美枝子は荷台の上を膝で歩きながら、シローの顔に自分の頬を近づけると、後ろから深く抱きしめた。

シローは幸せを感じていた……。

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