雪割草
 走るリヤカーの振動に耐えながらも、美枝子は最後の力を振り絞り、真実の言葉を解き放っていった。

すべての想いを、後悔しない為にと……。

「三年前のあの日……。

あの、台風の夜……。

私は夫の暴力に耐えられなくなり、気がつくと隅田川の河川敷に来ていた……。

そして、隅田川の濁流に身を投げようとしたの……。

でも、それを隅田川の段ボールハウスの人達が、みんなで助けてくれたの……。

命を救われた私は、彼らに着いて行った……。

激しい雨の中を、私達は歩き続けた……。

そして……。

わたしは、あなたと出逢ったわ……。」

 ニシヤンとチュンサンの目には、涙が流れ始めていた。

美枝子は出来る限りの息を吸い込み、更に続けた。

「それからの私の生活は、とても幸せだった……。

本当に穏やかな暮らしが続いていったの……。

シローちゃん……。

あなたが居てくれたからよ……。

あんなに、誰かに優しくしてもらった事なんて……。

それまで、無かったから……。

うれしかった……。

たのしかった……。

せつない程、あなたが好きよ……。

ありがとう……。

シローちゃん……。

とても……。

とても、深い三年間だったわ……。」

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