雪割草
第十七章~夕日の行方
 シロー達は彷徨っていた。

何も物言わぬ美枝子の亡骸をリヤカーに乗せて、一昼夜一睡もせずに歩き続けていた。

高速道路の高架下を潜り抜け……。

大通りの路地裏に迷い……。

迷路の出口を見つけ出そうと、あてもなくリヤカーを引き続きていた。

 誰かの言葉を借りるならば、失った物の大きさ、とでも言うべきだろうか。

絶望感が支配していた。

それでも、取り乱す事なく平常心を保っていられたのは、ニシヤンとチュンサンが側に寄り添ってくれているからだろう。

 彼らの疲れ果てた足取りは、やがて大きな橋のたもとまで来ていた。

目の前には、緩やかに流れる川の水面が、夕日の光で煌めいていた。

゛これが、美枝子の言っていた隅田川か……。゛

 東京に来て十数年になるが、隅田川まで足を運んだのは初めてだった。

 一晩中彷徨い歩いた挙げ句、この場所にやって来るとは……。

まるで美枝子が、呼び寄せたのではないか……。

そんな気持ちにさえ、なっていた。

 オレンジ色の川面を眺めながら、

「きれいだな……。」

 ニシヤンが、しみじみと口にした。

「あぁ……。」

 チュンサンも頷いた。

 三人は河川敷に腰を下ろし、暫く川の流れを見つめていた。

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