雪割草
 夕日が不思議と間近に思えた。

昼と夜とを繋ぐその意味を、あの優しい日差しは知っているのだろうか。

長い一日が終わりを告げ、薄暗い夜がやって来る。

夕暮れという、その曖昧な時間に身を委ねていた……。

 緩慢に過ぎる時の中、膝を抱えて座るシローの横顔に、黒い影が出来た。

ニシヤンが立ち上がり、シローを見下ろすようにして、肩を叩いている。

「シローさん。ここでさー。
ここで、美枝子さんを弔おうか……。」

 胸に滲みる一言だった。

 まだ、心の準備は出来ていなかった。

いつかは覚悟を決めなければならない。

それは承知していた。

しかし、現実に言葉としてなぞられてしまうと、嘔吐にも似た吐き気がもよおしてきた。

自分の顔を両手で覆い隠し、ニシヤンの言葉を反芻した。

体温が吹き抜ける風に奪われていった。

 美枝子の呼び寄せたこの川が、彼女を弔うに相応しい場所なのかもしれない。

そう納得出来るようになった頃には、太陽もすっかり沈んでいた。

別れを告げる夜のブラインドが降りてきていた。

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