雪割草
 少し間をおいてから、目の前をスーツ姿のサラリーマンが、血相を変えて走り過ぎて行った。

妙な心の攪乱におそわれ、街灯の下に消えてゆく怪漢の背中を目で追っていた。

「ギャー!」

 たたみかけるようにして、今度はリヤカーの荷台から悲鳴が聞こえた。

何事かと思い、慌てて荷台の所へ駆け寄った。

すると、一人の高校生ぐらいの少女が道端に尻餅をつき、驚愕しながらこっちを見ていた。

シローは助けようとして、彼女に近寄り手を差し伸べた。

 そして、目が合った瞬間……。

震える唇で少女が言った。

「あっ、あっ、あんた……。

人殺し?」

「…………。」

 シローは目を丸くしていた。

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