雪割草
 その矢先、暗闇の向こう側から、大きな靴音が鳴り響いてきた。

さっきのサラリーマンが走りながら戻って来た。

「やばい!」

 少女は慌てて、リヤカーの荷台に潜り込んだ。

「おじさん!早く行って!」

 頭の上からビニールシートを被り、息を潜めた。

 シローは状況が把握出来ないまま、取り敢えず言われる通りに行動した。

サラリーマンはすれ違い様シローを一瞥したが、そのままラブホテル街へと走り去って行った。

 暫く経って、少女はブルーシートから顔を覗かせると、周りを満遍なく見渡した。

そして、止めていた息を大きく吐き出し、我慢していた体を解放しながら、確認するかのようにシローに尋ねた。

「行っちゃった?」

「あぁ」

 シローはリヤカーを引きながら答えた。

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