裏切りの少年

「改めまして、私は柴田セイジです」


俺は名刺入れから名刺を出し、アユミに渡した。
アユミは名刺を眺めている。


「『フリーライター』………」


アユミは俺と名刺を何度も見返した。


「どうしました」

「いえ、思っていた人よりも感じが違うな～、
って思いまして………」

「よく言われます」

「貴方が書く本を拝見して、もっと真面目な………
固い人だと、想像してました」

「そうですか。
たぶん、文に力を入れ過ぎて、そう感じたのかもしれません。
これからはもっと緩やかな感じで書いた方がいいかもしれませんね」

「いえいえ、そういうわけじゃないんです。
ただ、私の想像と違った………
それだけの話です。
気にしないでください」

「分かりました」


俺はメニューをアユミに渡した。
しばらくすると、アユミは店員にコーヒーを注文した。

「自己紹介がまだでしたね。私がアユミです。
以前から、柴田さんの本は何冊も購読しています」

「ありがとうございます」


俺はアユミに御礼を言った。


「私も『W』に興味があって、色々な本を読んでいますけど………
その私のような人でも取材対象になるんでしょうか」

「はい。
そのためにこうして会う機会を作ったのですから」

「そうですか」


店員が注文したコーヒーを持ってきた。


「―――以上でよろしいですか」


「はい」


アユミは返事をした。


「それでは、ごゆっくりどうぞ」


店員は去って行った。
俺は鞄から、封筒を一枚取り出し、アユミに渡した。


「これは………」


アユミは封筒の中身を見た。
そこには金額にして1万円が入っている。


「前金です。
残りは、話が終えてからお渡しします」

「わかりました」


アユミは封筒を鞄に閉まった。