裏切りの少年
52. 黒板
「『瞬間記憶』能力………」


俺は神山博士が指している頭を見た。


「そう。
人間の持つ記憶力が人よりも異常に高いってこと。
人って生きる中で様々な経験をするでしょ。
その際、記憶というメモリーに保管される。
僕は一度見た物は好きな時に思い出すことが出来る。
もちろん、研究資料も論文も、全て記憶している。
便利でしょ」

「はぁ………」

「だから、部屋には本なんて置かない。
調べ物は全て頭の中で行う。
もちろん、僕の研究資料もね」


俺は辺りを見渡したが、確かに本当らしい。
実際、部屋に置かれているものの中で本や書類等は一切ない。
あるのは辺り一面に設置された黒板だけだ。


「でも、色々な研究データ―を保管しているのに『キャンセラー』を作る物質は一切ない。
過去の研究で役立てそうな物件を模索している最中だ」


俺はしばらく、考えてから神山博士に言った。


「神山博士が話していた『粒子』特性は『電気』特性に似ていますね」


そう言うと、神山博士は笑みを浮かべた。


「そうだね。
まぁ、『脳信号』は『微弱の電流』だから。
電流回路が(+)と(―)を繋げて初めて電流が流れるように、能力も(+)と(―)の回線を繋げることで可能になる」

「『キャンセラー』による能力無効化も同じような原理なんですか」

「いいや。少し違うかな。
君は能力を使えない『無能力者』ってどうして存在すると思う」

「自分の能力を理解していないためだと思います」


俺は素直に答えた。


「正解だ。
まぁ、一般論ってところかな。
『無能力者』には2種類の考えがある。
『空間系』の『無』能力者か。
それとも『肉体強化系』の『粒子分離』能力者か。
前者は、『無』の状態で体外へ放出される。
後者は、(+)(―)の粒子が結合しない体質ってこと。
僕の『キャンセラー』はこの2つを応用したものだ。
『ドライブシステム』内に能力を発生させない『無』空間を作る。
更に、体内の(+)粒子と『ドライブシステム』で作られた(―)粒子を強制的に結合させ、『無』能力にする。
その場合、粒子の割合は(―)が多く、『空間系』として体外に放出する」
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