裏切りの少年
―――30分後

俺は待機場所にいた。

『狼』の変身は解いていない。

俺の方に近づいてくる足音が聞こえた。

音のする方を見ると、相棒がそこにいた。


「おつかれ」


俺は相棒に言った。

相棒は防寒着を着て、肩に荷物を持っている。


「………」


相棒は返事をしなかった。

相棒は持っている荷物を地面に置いた。


「サンキュー」


俺は『人間』の姿に戻り、荷物をあさった。

用意しておいた服に着替え始めた。


「ウルフ、どういうことだ。
なぜ、あの女を逃がした」


俺が着替えている最中に、相棒が話しかけて来た。


「標的の持っていた情報で気になることがあったからな」


俺は答えた。


「気になること………」


俺の『能力』は服が破れるため、通信機を持てない。

つまり、相棒との連絡が取れない。

相棒は『3分間の猶予』の話を聞けない状況になる。

俺は『辻本ユウジ』から聞き出した情報を相棒に話した。


「―――つまり、標的は俺達の裏切り者であり、奴が造った組織『W』は俺達同様『管理側』の人間が所属しているんだな」

「そういうことになるな」


相棒の状況理解能力の高さに感謝したい。


「だが、なぜあの女を逃がした。
あの女も標的と同じ人間なのかも知らない」


俺もその点で逃がすかどうか迷った。


「もし、『W』が辻本の言う組織なら俺達は手を出すべきじゃない」

「………」

「それに俺達の任務は『辻本ユウジの暗殺』だ。
『Wの破壊』ではない」


相棒はため息をついた。


「あとは議長の判断次第だ」


ここで相棒と議論したところで意味がない。

俺達の仕事は終わったのだから。


「報告するこっちの立場も考えろよ」


相棒は面倒事に巻き込まれたような表情をしたい。


「あとはまかせた」


俺は用意した服を着終えた。
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