裏切りの少年
―――神山博士研究室
俺が部屋に入ると、『ドライブシステム』内で卵のような物体が装置の中で浮いていた。
卵からは光が出ているが、あまり強くはない。


「今、最終調整しているところだから」


神山博士は装置をいじりながら話した。


「はぁ………」


俺は『ドライブシステム』に近づいた。


「神山博士。
これは………なんですか」

「卵だよ」

「卵………ですか」


俺は戸惑いながらも返事をした。


「試験管などの装置だと生体バランスが崩れやすいんだ。
人間が母親の子宮で産まれるように、その役割を卵という形にしただけさ」

「はぁ………」


俺は辺りを見渡した。
以前、『キャンセラー』の事で揉めたのに、今日来たら『超越者』の研究を素直にやっている。
どういう心境だ。
まさか、『キャンセラー』は完成したのか………


「神山博士。
『キャンセラー』の研究はどうなりました」

「失敗したよ」

「はぁ………」


やはり、俺が帰った後、『キャンセラー』に研究を移行したか………


「小型化は出来たんだけどね。
問題は使用時間なんだ。
『超粒子磁石』って言っても、ようするに(+)粒子の塊でしょ。
外の(―)粒子を人よりも磁石に集めることで粒子を『無』変換させるんだけど、(+)粒子にはかぎりがある。
(+)(―)の粒子が結合することで『能力』になるけど、その分、(+)粒子は減っていく。
まぁ、永久的に使えないってことかな」


神山博士は『ドライブシステム』の操作を止めた。


「はい。完成」


神山博士はサングラスを取った。


「サングラス、取っていいよ」


俺は神山博士に指示されたようにサングラスを取った。


「完成とは………」

「僕にできることは命を与えるだけ。
あとは卵の中の子が『生きたい』と願うしかない」

「はぁ………」

「『超越者』とは『選択の石』そのものなんだ」


神山博士は話した。
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