裏切りの少年
58. 矛先
相棒はアイドを見つめていた。
殺されていることを恨んではいるのか。
いいや、それは無いだろう。
相棒は『C』に手を貸していたのだ。
俺と相棒が手を組んでいることが知られるのも時間の問題だった。
もっとも、あの時は『C』のメンバー暗殺だったため、運悪く殺されたにすぎない。


「あまり、世界で騒ぎを起こすな。これは俺からの忠告だ」


『忠告』の部分を強く協調して言った。
相棒の言いたいことも分かる。
この世界で能力を持つ人間はほぼ全員だ。
だが、その中でも飛びぬけた能力を持つ者はアイドを含めて多才の力者しかいない。
それは薬を使って『超越者』になる状態にならなくてもだ。
多才能力者の能力値は一般レベルだ。
だが、それは強さを示さない。
能力の使い方次第では、いくらでも強くなる。


「大丈夫。
俺は何もしたくないのをモットーにしているから」


自分には関係ない。
のんびり暮らすのが生きがいだ。
だから大丈夫。
そう言いたいのだろう。
だが、果たしてそれがアイドなのだろうか。
こいつはちょっとした刺激を与えれば、手段を選ばず行動する。

現に、ナナミを襲った。仲間を助けるためとは言え、単身で『C』に攻撃をするなど、あり得ない事だ。
ナナミに手を出せば、『W』の総長を含む戦闘部隊と対峙することになる。
考えれば、誰だってそれは避ける。だが、アイドはしなかった。
結果として、森下を殺しただけで、他の命は取らなかったものの、それは俺との約束をしていたためだ。
もし、俺がアイドと約束をしていなければ甚大な被害を与えただろう。


「ウルフ。
こいつも現実世界に連れて行くべきだ。
悪いことは言わない。
こいつをこの世界に居続ければ、次の世代になる前にこの世界がおかしくなる」


それは俺にもわからないことだ。
こいつと会うのはこれで2度目だ。
ジュリーの持つ『超越者』の力を見たから、こいつの強さはある程度理解できる。
だが、人物面までは理解していない。
ただ、行動力だけはあるということだ。
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