裏切りの少年
「隣、いいかな」


俺は女に聞いた。


「空席なんだから、座ればいいじゃない」


女はマスターの出したカクテルを手に取りながれ答えた。


「君、大丈夫か。
かなり酔ってるようだけど………」

「いいのよ。
どうせ仕事なんて辞めたんだから………」


俺はマスターにもう一杯ウィスキーを頼んだ。

先程同様にマスターはウィスキーを注いだ。


「仕事ってどんな仕事だ」


俺は女と話すために聞いた。


「なーに、あなた。
………ナンパ。やめてよ」

「時間はあるんだろ」


俺は引き下がらなかった。


「………」


女は俺の顔をしばらく眺めていた。


「そうよね。
どうせ明日からは何もないんだから………」

「ああ」


俺はこの『美しい女』と話せることが出来た。


「私ね。今日まで弁護士をやってたの」


女は自分のことを話し始めた。


「………弁護士」

「そうよ。
正義のためとか………
笑うでしょ」


女は冗談のように話した。


「いいや。俺は良い仕事だと思う」

「そう………聞こえはいいわよ。
『弁護士』なんて」


女はグラスを持ち、カクテルを飲んだ。


「夢だったんだろ。
どうして辞めたんだ」

「仕事よ」


怒声で答えた。

店に女の声が響いた。

俺は周囲を気にしたが、女は全く気にしていない様子だ。


「誰が見たって有罪の奴をどうして守らないといけないのよ」

「それは君が選んだからだろ」

「そうよ。
それが間違いだったのよ。
誰だって法に触れる事ぐらいしているわ。
私はただ守りたかったのよ」


俺は女の顔を横から見ていたが、泣いてるようだ。


「くだらないことで揉める奴らを助けたくない」

「君は………」

「『助け合い』って言葉を知らないのかしらね。
引けばいいところを引かない。
両者が攻め合うから争いが生まれる。
その繰り返しよ」

「………」


俺は黙った。


「それも今日で終わりよ………」


女は手で額に当てた。

飲みすぎて頭がクラクラしてるのだろう。
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