裏切りの少年
―――車の中
決まった時間に運転手が五十嵐を迎えに来る。

これはいつも通りのことだ。

俺と五十嵐は車に乗り込み、事務所に向かう。

いつも通りなら、この時間に俺は睡眠を取るが、今日はしなかった。


「先生」


俺は五十嵐に話しかけた。


「本日の予定では、午後に早川さんとの面談があります。
そのことで少しお話したいことがあります」

「なんだ」


五十嵐は新聞を読みながら答えた。


「以前より、先生は国の成長として能力開発部門に力を入れたいとお考えだったと思います。
今までは先生の立場上、そのようなことには一切ふれないように提案してきました」


五十嵐は新聞を読むのを止めて、俺の方を見た。


「そろそろ、先生の描きたい国造りを始めてもいいかと思うのですが」

「それは早川さんとの面談での話か」

「はい。本日行われる早川さんとの面談です」

「しかし、ヒサ君の話では資金の提供や出世のために、言わない方が無難だと聞いたが」

「そうですね。
でも、いつまでも何もしない状態が続けば、先生の理想は叶いません」


五十嵐は考えていた。


「本日の面談では意志表示をする。あるいは手ごたえを掴む程度でいいです。
もちろん、早川さんの意見を聞くことも大事ですが」

「意志表示か………」

「はい」


俺は五十嵐の返事を待った。
< 77 / 243 >

この作品をシェア

pagetop