裏切りの少年
俺は五十嵐の方を見た。

五十嵐は支援者に支えられ、立っているのがやっとの状態だ。

事務所内は焦げ臭くなっていく。

上の階からの煙が事務所まで入ってきたのだろう。

現在、事務所にいる人間は硬直状態になっている。

その状況下で頼りにしているのはリーダーだ。

リーダーも決断したのだろう。

今まで外で指示を出していたリーダーが事務所内に入ってきた。


「五十嵐さん。
これから私の指示に従ってください」


五十嵐は動揺しながらも小さく頷いた。


「我々は貴方を守ることが仕事です。
本部との連絡が取れない状況、またビルに『炎』が引火した以上、この場所に居られるのも時間の問題です」

「それじゃあ………
あの化け物の前に行けと言うのか」


五十嵐はリーダーに怒鳴った。


「違います。
我々はあの男の気を引きます。
その間に警察本部へ避難してください」

「嫌だ………
あの男が消えない限り、私はこの場所を離れない」

「しかし………」


それ以降、五十嵐はリーダーの話に答えなかった。




俺は護衛をしている『空間認識』能力者に話しかけた。


「事務所を射撃した奴の居場所はわかるか」


俺はホークの場所を確認しようとした。


「正面に建っているビルです」


この能力者は二次元的にしか捉える事が出来ない。

つまり、立体での観測が出来ない能力者だ。

だが、ホークのことだ。

アイツの居場所は屋上にいるだろう。

やがて、事務所内に黒煙に包まれていく。

これ以上、長居するのは厳しい状態になるだろう。
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