チョコに想いを【完】
またチラリととある場所に視線を向けると、いつの間にかヤキソバパンを食べ終えていた雪とバチリと視線がぶつかった。
すると、雪が立ち上がってこっちに向かって歩いて来た。
「何?蜜華」
あたしの真横の席のイスを引いて、座った雪にあたしはわざと眉を潜める。
「何って、呼んでないんだけど?」
「見たじゃん」
「たまたまだよ」
「たまたま?」
「そー。たまたま」
あたしの返事に、ふーんと返した雪はあまり気にした様子も無く、香澄に視線を移す。
その瞳があたしや周りに向ける感情と違うのがよく分かる。
あたしだけじゃない。
香澄以外、ほとんど知ってる。
雪が香澄に向けるその想いに。
雪は分かりやすいし、香澄にそう接する事を隠したりしないから。
「雪」
「ん?」
「誕生日、何がいい?」
本人に直接欲しいものを聞く事にしたらしい香澄に雪はニッコリと笑う。
「香澄がいい」
「一日お手伝いって事?」
「違う。」
「???」
よく分かっていない香澄に雪が苦笑したのを見て思う。
はっきりと『好き』って言わないと、鈍感な香澄は気付かないよ、って。
ー…でも、
言わない雪の気持ちも分かるんだよね。
今の関係が変わるのが怖くて、想いをはっきりと言葉にする事が出来ないって。
言わないんじゃない。
言えないんだよ。
けど、気付いてほしいから、遠回しには言っちゃうんだよね。