チョコに想いを【完】
あたしだってそうだもん。
気付いてほしい。
でも気付かれちゃったら、きっと今まで通りじゃなくなる。
だから、はっきりと言えない。
「蜜華」
「何?」
香澄に苦笑していた雪が、ふとこっちを見た。
「誕生日のリクエストあるんだけど」
「リクエスト?あげるなんてあたしは一言も言ってないんだけど」
「蜜華お手製のチョコケーキ」
「ちょっと、人の話聞きなよ」
「…が食いたい」
「………。」
ダメ?って顔を覗きこまれたあたしは微妙に視線を外した。
ー…あんまり近付かないで欲しいなぁ。
心臓の音が聞こえちゃうかもしれないじゃない。
「なあ、蜜華」
頼むよ、と甘えるように言ってくる雪が実は、あたしの気持ちを知ってるんじゃないかと疑いたくなる。
けど、香澄同様、雪も鈍感だからきっと気付いてない筈で。
それが分かっているのに、動揺してしまうあたしは、
「しょ、しょうがないなぁ」
あっさりと折れてしまう。
「チョコケーキね」
もう、と面倒臭そうなフリをして、雪の顔を手で思い切り遠ざけると、
「香澄、また美味いケーキが食えるぞ」
雪が嬉しそうに笑った。
その笑顔がなんだかずるいと思ったのはきっと、
あたしだけ、なんだろうなぁ。