チョコに想いを【完】



あたしだってそうだもん。

気付いてほしい。

でも気付かれちゃったら、きっと今まで通りじゃなくなる。

だから、はっきりと言えない。


「蜜華」

「何?」


香澄に苦笑していた雪が、ふとこっちを見た。


「誕生日のリクエストあるんだけど」

「リクエスト?あげるなんてあたしは一言も言ってないんだけど」

「蜜華お手製のチョコケーキ」

「ちょっと、人の話聞きなよ」

「…が食いたい」

「………。」


ダメ?って顔を覗きこまれたあたしは微妙に視線を外した。


ー…あんまり近付かないで欲しいなぁ。

心臓の音が聞こえちゃうかもしれないじゃない。


「なあ、蜜華」


頼むよ、と甘えるように言ってくる雪が実は、あたしの気持ちを知ってるんじゃないかと疑いたくなる。

けど、香澄同様、雪も鈍感だからきっと気付いてない筈で。

それが分かっているのに、動揺してしまうあたしは、



「しょ、しょうがないなぁ」


あっさりと折れてしまう。


「チョコケーキね」


もう、と面倒臭そうなフリをして、雪の顔を手で思い切り遠ざけると、


「香澄、また美味いケーキが食えるぞ」


雪が嬉しそうに笑った。



その笑顔がなんだかずるいと思ったのはきっと、

あたしだけ、なんだろうなぁ。



< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop