彼の泣き虫事情
「ううん、ちょっと寒かっただけ」
「きよは泣き虫さんやなあ」
けらけら笑いながら、指で涙を拭ってくれる陽太に、また泣きそうになったけれど、我慢した。
「それにしても寒いな。早よ教室戻ろうや」
立ち上がった陽太は、雪の上に落ちていた昼飯とフライドポテトを見て不思議そうな顔をしていたけれど、私が何事もなかったかのようにそれを広いあげれば、彼も気にすることなく歩き始めた。
寒いなあ、なんて言いながら、空いてる方の手をぎゅうと握られる。そのまま引っ張っていってくれる温かい手を、私も握り返した。
「ねえ、陽太」
「なん?」
「今度、雪合戦しよっか」
雪に足跡を残して進んでいた足が止まって、陽太が振り返った。
「約束やで!」
まるで太陽のようなその笑顔は、この雪を溶かしてしまいそうな程に眩しかった。
END
→あとがき