彼の泣き虫事情
急に触られたことにびっくりした彼が、こちらを振り向いた。
反射的に謝った私の言葉なんてまるで聞こえていないみたいだ。大きな瞳を更に大きく見開き、不思議そうに目をぱちくりしている。そして、少し考えるような素振りを見せた後、彼は優しい表情で口を開く。
「どうしたん、サキちゃん」
その言葉に声を無くしたのも一瞬だけだった。少し心配そうに私を見る彼の瞳は、どこまでも綺麗で、真っ直ぐで、そして何一つ嘘はないのだ。
初めこそは、ひどく悲しい気持ちになった。けれど、もう慣れてしまった私にとっては、いちいち表情に出すようなことではなくなった。
私の名前は、サキじゃない。
「ううん、陽太の頭の上。雪積もってたから」
「ほんま?おおきに」
掃ってくれるなんて、サキちゃんは優しいなあ。嬉しそうに目を細めて笑う彼に、私も笑った。