彼の泣き虫事情
「雪合戦、したない?」
「雪合戦?」
「おん、俺今、めっちゃ雪合戦したい気分やねん」
そう楽しそうに笑う彼は、また窓の外の灰色の空と真っ白な地の地平線をぼんやりと眺めて、雪はええなあと呟いた。そして、また私が彼の髪に触れて、彼は私じゃない誰かの名前を呼ぶのだ。その繰り返し。
繰り返しだけれど、彼にとってはそうじゃない。私と同じ時間を共有する、それが最初で最後なのである。
だけど、そうではない時も、ある。
何故雪が良いのか、聞いてみたことがあった。その時彼は、自分の頭と似ているからと。直ぐに消えていってしまう所が、似ているからと。確かに、そう言ったのだ。
忘れてることすら忘れてしまっていると思っていた私には、ひどく衝撃的な言葉で、なにとも表現できない想いに駆られた。
そういう時、彼は何を思うのだろうか。考えてみても、私には分からなかった。