彼の泣き虫事情


 昼を告げるチャイムが鳴ったのにも気づかない程に、私は物思いにふけっていたらしい。教室内を見渡せば、すでに人はまばらだった。


「きよ、俺食堂で飯買ってくるわ」


 席を立った陽太が、いつもそうしているかのように、まるで当たり前のように自然な動作で私の名前を呼ぶものだから、一瞬だけ、私は彼を見上げて固まってしまった。


「…きよ?どないしてん?」
「あ、ううん。行ってらっしゃい」


 笑顔を向ければ、陽太は眩しいくらいにニカっと笑って、フライドポテト余っとったら買ってきたるわー。なんて呑気に手を上げながら教室を出ていった。

 蜂蜜色の後ろ姿を、私は静かに見送った。


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