彼の泣き虫事情
教室を飛び出す際に、咄嗟に掴んだ自分のマフラーを、今にも立ち上がって雪の球を作り始めそうな陽太に巻いてやる。
「おおきに!」
幸せそうな表情を惜しみなく見せる彼に笑いかければ、陽太は瞳を揺らして、次の瞬間には私は彼の大きな腕に抱きしめられていた。随分と長い間嗅いでいなかった陽太の香りが、身体全体を包む。
陽太の身体は、震えていた。それが寒さからなのか、はたまた違う何かからなのかは、私には分からないけれど。
「陽太?どうしたの、寒いの?」
「ちゃう、…ちゃうねん」
顔を覗き込むと、陽太は泣いていた。時々鼻を啜って、おおきにとか、ごめんなあ、とか、色々な感情がぐちゃぐちゃになっているのか、そういった言葉をゆっくりと吐き出していく。