月夜の物語


「新、姫の姿見たことある?」



普段は噂話などしない悠馬だが、この日はしきりに姫の話をしたがった。


――…姫。この城に住む、将軍の娘のことだった。


姫が居る、ということは世に伝えられているものの、その姿を見た者はひとりもいない。



「見たことねぇよ」

「なんでも、姫は本当はこの世に居ないって噂だ」

「へぇー…」

「生まれてすぐに疫病で死んだとか。でもそれを隠してるらしい」

「へぇー…」



なんで?と新は悠馬に訊いたけれど、その理由までは知らないと悠馬は返す。



「俺は、姫はものすごい美人だって聞いたけどな」

「ああ、俺もそれは聞いたことがあるな」

「でも、本当はものすっごいブスでさ。噂が先行して歩き回ってるから、いまさら顔出せねぇんじゃねぇの」



新はクスクスと笑って、また遠くに女の子を見つけると顔をキリっと引き締めた。

新もなかなかの男前で、ひっかかる女は腐るほどいたのだ。


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