悔やみ嘆く思い

「多分…半年くらい前だったかな…?あの子、走りに行くって言って家、飛び出していったのよ。」
おばあちゃんは思い起こしながら俺に語りかけてくれた。

「それでね、帰ってきたと思ったら嬉しそうに歌いながら帰ってきたのよ。あのときの実花は本当に幸せそうだった。」
「何があったんですか?」俺は興味津々に尋ねた。

「それがね…教えてくれなかったのよ。これは男の秘密だなんて言っちゃってね。私、実花にボーイフレンドでもできたのかと想ったわ」
頭の中で考える。実花に好きな人…?
今までそんな話、聞いたこともない。俺が知らなかっただけなんたろうか。

「その人にはよく会ってたんですか?」
「さぁー私に会いに来たりちょっと寄るだけってこともあったからその人に会ってたのかもしれないわね。」
その人が男なのか、女なのかも分からない。
俺は実花のこと、全然知らなかったんだろうな。

「あ、この意味分かりますか?」咄嗟に思い出したのは"明日 305"と書かれた意味の分からないメモ。
「ちょっと分からないわ…これは何のメモなの?」
「実花の部屋に置いてあったメモです。これしか手がかりなものがなくて…」
「305…305…」おばあちゃんは何度も305を口にしていた。

「んー。やっぱり分からないわ。ごめんね」
「いえ、ありがとうございます。俺、帰ります」
俺は椅子から立ち上がりカバンを背負った。

「翔太くん!!あなたは実花の分までちゃんと生きてちょうだい。それが私の生きる糧なのよ」
人間には誰にだって何かのために生きている。カバンがあるからこそ生きていける。

実花は何のために毎日を過ごしていたのだろうか。
俺には分からない。実花が何を思い何に従って生きていたのだろうか。

俺はおばあちゃんにあいさつをして家を出た。
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