バレンタイン事件簿
「じゃ、これでっ!!」


チョコが自分の手から離れて行くのを感じてから、

咲は奏を見る事もなくそそくさとその場を離れようとした……が。

咲の右手を奏が握った。何も言わず、唐突に。

何故か悪い事をしてしまったから怒られると思った咲は、

とっさに何度も“ごめんなさい”を連呼した。だが奏は怒ってはいなかった。


「ありがとうも聞かないで帰ろうとしないでよ。ほら、顔上げて?
さっきから俯いたままだから、顔くらい見せてくれても良いでしょ?」


恐る恐る咲が顔をあげたその先では、やっぱり奏は笑っていた。とても嬉しそうに。

それはまるで今まで見た事もないような幸せそうな顔だった。

顔を赤くしたまま、その笑顔を直視出来なくなった咲はまた俯き、そして……。


「チョコなんて久々に作ったので、お口に合うか分かりませんが……」

「ううん。貰えるだけでボクは嬉しいから。手作りなの? それは余計に楽しみだな」


2人きりだけの生徒会室には、それからしばらくの間幸せな空気だけが漂った。
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