桜りっぷ
貴方に抱き寄せられて

淡い恋心が、もう一度
甦ろうとした、その時

触れたのは、浬の唇ではなく
細く長い指先。

触れた場所は、唇ではなく
鼻先・・・

『無理すんなよ』

『無理なんてしてない
 キスをくれないなら
 これは、返さないから』

私は、腕時計を握り締めて
そう告げた。

『面倒くせぇ

 じゃあ、要らねえ 
 
 俺、行くわ』

貴方は、走り出す・・・

藍のもとへ・・・

そして、貴方の心は
藍だけのもの・・・

腕時計は、今も大切な
机の引き出しの中に
密かに眠る。
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