【短編】狼彼女とチョコレート
箱の中から甘い香りが漂う。
あたしはその中のものを指でつまんで、会長の前に差し出した。
「…あーん。」
「あ、あぁ…」
躊躇いがちに口を開けた会長。
あたしはそれを口の中に放りこんだ。
会長は一瞬、顔をしかめたが、すぐにまた困惑した表情に戻った。
「おいしい?」
「…甘い」
ぼそっと呟いた会長に、思わずフッと口元が緩んだ。
たぶん、会長もあたしがなんで不機嫌だったのか知ってるんだと思う。
あたしの表情を伺っている会長が可愛くて、さっきまでのイライラがどこかへ行った。
「し、篠田…」
「何?」
「その…チョコレート、いるか?」
「は…?」
至って真面目な顔でそう聞いてくる会長。
あたしは拍子抜けしてしまった。
だって…
“チョコレートいるか?”
って、今聞く台詞じゃないでしょ。