いつかたどりついたら
目を閉じた春樹の顔が、
近付いてきて、
すぐに離れた。

0.1秒、
ほんの一瞬だけ、
かすかに唇が触れた。

「さくらんぼみたいな味がする」

春樹が照れくさそうに言う。

今、
春樹にキスされた?

「そういえば俺、初めてだな」

笑いをこらえているみたいな表情で、
春樹は窓の外を見る。
日が沈みかけて、
空が薄い山吹色になっている。

「私は、初めてじゃない……」

「え?」

「矢沢先輩と付き合うことになった」

矢沢先輩の顔を思い出す。
嬉しそうにガッツポーズしている
先輩の横顔。

「今日、先輩とキスした」

赤かった春樹の頬が
みるみる白くなっていく。
ああ、「血の気が引く」って
こういう状態をいうのか。

なんて、他人事みたいに考えていたら、

「はあ!? 何、その急展開!」

春樹がキレた。
< 25 / 90 >

この作品をシェア

pagetop