いつかたどりついたら
「私は千里をそんな子に
育てた覚えはありません!」

八千代に大声で怒られる。
絵の具を溶く手が、思わず止まる。

「私も育てられた覚えはありません」

色彩実習の授業中だった。
実習中は、他の授業と違って
私語をしていてもほとんど怒られので、
教室は結構にぎやかだ。

「彼氏ですって、なんてふしだらな。
千里は私の手元で
一生大切に育てると決めていたのに」

ハンカチで目頭を押さえながら、
八千代が泣き真似をする。
どこまでが冗談で
どこからが本気だか
さっぱり分からない。

「ごめんね」

「いいけどー、たまには私とも遊んでよね」

珍しく、
八千代が普通の女の子みたいな
口調でしゃべった。

本当にちょっと寂しそうで、
なんだか申し訳無かった。
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