いつかたどりついたら
昼休み、混雑している売店で
ラスト一個のチョコデニッシュを
手に取ろうとしたら、
横からにゅっと手が出てきた。

「あ、吉野千里」

チョコデニッシュを手にしたのは
天草先輩だった。

「こ、こんにちは」

「これ食べたかったの?
譲ってやろうか?」

意外な優しい言葉にびっくりする。
天草先輩は口が悪いだけで、
根はいい人なのかも知れない。

「いえ、クリームデニッシュか、
どちらにしようか迷っていたので」

私がクリームデニッシュを手に取ると、
天草先輩は憮然とした顔になって、

「あんた、本気で何かを欲しいって
思ったことないだろ」

と、パンのお金を払いながら言った。
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