いつかたどりついたら
「矢沢先輩、キスしていいですか?」

ぴくり、と
先輩の体が動いた。

「私、いつも受身だった気がします。
でも今、自分から矢沢先輩が欲しいと
本気で思いました。
キスしてもいいですか?」

「駄目」

「え?」

「今、顔見せられない。
どんな顔してるのか、
自分でもわかんねえ」

矢沢先輩が苦しそうに言う。
その声は、なんだか彼らしくなくて、
先輩の深い部分を少しだけ
覗くことができた気がして、

「矢沢先輩は、色んな女の人と遊んでて、
私とのことも遊びかも知れないって、
そんな風に思っていました」

つい、本音を言ってしまった。

「馬鹿」

先輩が、腕の位置を変えて
私の頭を自分の胸に押し付ける。

「遊びでこんな風になるかよ。
今の俺、過去最高にかっこわりいな」

学生服のボタンが、私の頬にあたる。
矢沢先輩の心臓が、
別の生き物が入っているかのように
大きく鼓動していた。
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