いつかたどりついたら
「なあ」

春樹が半分だけ顔を上げる。

「ずっと気になってたんだけど」

茶色がかったゆるいクセ毛の隙間から
右目が覗いている。

「もしあの日
俺が千里のことを振らなかったら」

胸が、ちくりと痛む。

「矢沢先輩と付き合ってなかった?」

それは、
私自身が何度も
自問自答した言葉だった。
そして、もう答えは出ていた。

「遅かれ早かれ、
いつかは付き合っていたと思う。
私、矢沢先輩のことを本気で好きだから」

再び沈黙が訪れる。

春樹が大きくため息をついて、
上半身を起こす。

「そう言ってもらえて良かった。
これであきらめがつく」

自嘲するように笑って、
春樹が話を続ける。
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