いつかたどりついたら
怒るつもりで病室に来たのに
なんだか意表を突かれて、
タイミングを失ってしまった。

「プリン、買ってきたんですけど」

「おー、食べる食べる」

プラスチックのスプーンで、
プリンを矢沢先輩の口に運ぶ。
ちょっと照れくさそうな顔をして、
先輩がプリンを食べる。

空色のパジャマ。
真っ黒でサラサラの髪。
真っ白なギプスとシーツ。

いつもと違う矢沢先輩を、
カメラのシャッターを切るみたいに
胸に焼き付ける。

「骨折程度で良かったです」

「ほんと、運が良かった」

矢沢先輩が静かにつぶやく。

「死んだかと思ったもん、俺」

その声は、
冗談ではなく
本気で言っているようだった。
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