いつかたどりついたら
「最近、毎日同じ夢を見るんだ」

独り言のように彼が話し出す。

「全裸の千里が立ってるんだよ。
何故か眼鏡はかけてるんだけどさ。
俺は手に長い長い鎖を持っていて、
こんくらいの太い鉄の鎖なんだけど」

矢沢先輩が右手で
鎖の大きさを伝えようとする。
右手が自由にならないことを思い出して、
そのまま話を続ける。

「その鎖を千里にぐるぐる巻いていくんだ。
ああでもない、
こうでもないって工夫しながら、
脇の下を通したり太股に巻きつけたり」

矢沢先輩は、
シーツに目を落としたまま話している。

「千里は俺なんか全然見ていないんだけど、
鎖を全部巻いて満足した気分でいたら、
隣にもう一人千里がいるんだ。全裸で。
『ああ、鎖が足りねえ』って途方にくれて、
千里はずっとどこか遠くを見ていて、
ただ、それだけの夢」

半分残ったプリンのカップを
両手で握りしめる。
言葉が見つからない。
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