43歳の産声
そして、もう一度力一杯母の顔を引っ掻いた。
「殺してやる。もうあんたなんか生まれてこなきゃよかったのよ。」
母は側にあったガラスの灰皿を手にとって振りかぶっていた。
もう殺してくれ。
母の言う通りだ。私は生まれてきてはいけない人間だったんだ。
父から愛されない母が薄汚い不倫相手と作った私は、生まれながらに中年男性の顔と心を持っていた。
そして母から暴力を振るわれ、挙げ句の果てに殺されようとしている。
生きていけるわけない。こんな深い傷を負ったのだから。
いっそ、一思いに。
ゆっくりゆっくりと母の持つ灰皿が大きく見えてきた。
あぁ殺されるんだ。
そのとき、ふっと母に抱かれた匂いを思い出した。
懐かしくてなぜかかすかに石鹸の香り。
死にたくない。
もう一度、母に、その腕に抱かれたい。
「生きたいんだ!!」
私は、はっきりとそう叫んだ。声に出した。