43歳の産声
私はなんのことかさっぱりわからなかった。
きょとんとしている私に医者はこう言った。
「覚えてませんか?あなた会社のビルから飛び降りたんですよ。」
そうだ。思い出した。私は会社で苛められて、自殺しようとビルから飛び降りたんだ。
そこにいるのは、母と妻と娘だ。
私は自分のからだに目をやった。
まぎれもなくおっさんの体だ。
あれは夢だったのか。そうだとしたら悪夢だ。
「あんた、小さな声で母さん生きたいって言ってたよ。」
母は涙を目にためたまま、力なくそう言うと、か細い腕で力一杯私を抱きしめた。