恋愛妄想
「僕、この映画見たかったんですよ」
「…そう」
「ああいう田舎町に憧れてて」
「ウチは母の実家が凄い田舎で
夏休みとか冬休みによく行かされたのよね」

何気ない会話の中で
久々にドキドキする。

「高田君、そういえば彼女いるの?」
前に 彼女のことを聞いた覚えがあった。
「ああ、いたんですけどね…ゴールデンウィークに…別れちゃいました…」
あたしは内心しまった、と思い、話を変えようとした。
「ゴールデンウィークに友達交えて
他の男の子達と旅行に行ったみたいで。
俺、振られたんですよ」
笑ってはいるが目が遠くを見ていた。

普段の一人称は「僕」だったりするのに
今は「俺」かぁ…

あたしは、
そんな どうでもいい事を考えていた。

映画の感想を話しながら
帰りが遅くなってしまった。
「あたし、高田君の事凄くいい人だと思う。」
高田君は照れて
「そんなことないです。」
を繰り返した。

終電で、彼は同じ電車に乗る。
あたしが降りる駅の二つ先に
彼のアパートがあるのだという。

「夜遅いし、心配だから家まで送ります」
そう言って高田君はあたしの降りる駅で降りた。
「あたし一人で絶対大丈夫、
フタ駅先なんでしょ?明日仕事だし 遅くなっちゃう…」
「いや、大丈夫。送るつもりでいたから」
「…ダメだよ…本当一人で平気だから…」
「いや、ホントに」
そんなやり取りをしていた。

駅からあたしのアパートまで10分。
なぜかあたしは遠回りをしたかった。
ヒールの踵を気にして歩くのが遅いあたしを
たまに振り返っては 高田君は立ち止まる。

期待しては いけない。

きっと誰に対してもそうだ。
あたしに特別なんじゃない。
あたしは自分に言い聞かせながら
鼓動が速まるのを抑えられなかった。

「どうしたの?」
「なんでもない…です」
高田君は笑った。



また 始まってしまう…
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