恋愛妄想
失敗だった。

たぶんこのスポンジ台、中身焼けてない。

だって、重い。


恐る恐る竹串を刺す。

「焼けてるのかなー…」
「焼けてるよ」

スポンジ台を2段にカットしたけど
やっぱり中心がヤバイ。
「大丈夫だよ、こんなもんだよ」

カットしたフルーツを敷き詰めながら
生クリームでパテする。

時間がない。
とにかく帰宅する前の彼を待ち伏せて
今日中に渡したいのだ。

箱に入れるとズシッと重い。


「リカ、時間がない…行って来る!」
「私寝てていい?」
その言葉にVサインして
あたしは自転車に乗った。
前篭に置いた箱が傾かないように。



土曜日は休日で
派遣の出勤は彼だけだ。
すでにリサーチ済み。
でも
もしフロアに誰かいたら…

一階の、タイムカードの横で待ってみた。

階段を降りる靴音に
いちいちびくついて隠れたりした。

「あれ?何やってんですか?生田さん」
一時間くらい待って彼が来た。

「あ…ケーキ…作ったんだよね…誕生日…だよね」
目を合わす事ができなかった。
「えっ?作った?作ったんすか?」
笑ってる 笑ってる。

「俺、初めてですよ、手作りとか」
「あたしも初めてだから…失敗した…かも…」
「食べるよ、食べます」




「で…そのまま帰ってきた、と」
アパートに帰るとリカが腕を組んで待構えていた。
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