恋愛妄想
気がつくと あたしはウトウトしていたようだ。
チャイムの音で目覚めた。

パジャマのままドアホンも上げずに玄関を開けた。

「おす」
退社したリカがコンビニの袋をぶら下げて立っていた。

部屋に上がると
リカはいつも座るように
ダイニングキッチンのソファに座らずカーペットに時下座りし
ヴィトンのバッグからタバコを出す。

「あ、風邪引いてんのにタバコはまずいよなぁ」
と笑った。

あたしはシンクの引き出しから灰皿を出して
コンロにケトルをかけた。

「あ、かってきたんだけどさ、」
ガサガサとコンビニの袋から飲み物や食べ物を出して
テーブルに並べる。

「ポカリスェットと…プリンと…あ、あんた好きでしょ、ハーゲンダッツのストロベリ。」

そう言いながら
袋から最後に取り出した缶ビールを勢いよく開けた。

「なんかあった?」
「ん?」
「あんた、すごい顔してるわ…鏡見た?」
「見てない…」
そ、と言いながらビールを飲み始める。

「ヤツがさぁ…今日変で…
まぁ いつも変なんだけどね。
あたしに言うのよ…
<田沼さん、僕って信用できないですかね>って。」
あたしはまた心臓がドキドキした。
ときめいている、とかのピンクなドキドキではない。
リカはどこまで知ってしまったんだろう。

「あたし言ってやったわよ、信用されないのも個性?みたいな?
どれだけ誠実でも相手が不誠実だと思ったら
それはもう不誠実なのよ、って」

あたしは黙り込むしかなかった。

「そうですかね、って笑ってたわ。変な顔で」
リカはタバコに火をつけ
大きく煙を吐いた。

「あんたもあたしになんか言いたいことない?ん?ケンカでもしたか?」
あたしはリカのタバコを一本くすねて火をつけた。
「まぁ、いいのよ。女だし。男にのめり込んじゃえば 仕事に出る。
私だって前彼にボコられた時は あんな顔じゃ出勤できなかったし…
髪の毛引きずり回された時はマジ抜けてハゲたからね」

あたしはいつものように右斜め上を見ながら
たどたどしく言葉を放った。
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