キミを唄う...
その千沙の後ろには 彼女より2センチくらい小さくて 大人しい子がついて来ていた

「あれ?その子誰?」

なんだか 雄一らしくない

切れると女子なんか去ってしまう性格を抑えて 優しい弟を気取っていた

「紹介するね!この子、クラスメイトの安田カナって言うの。なんか2人の話をしてたら“行きたい!”って言い出してね」

千沙は カナの肩に腕をまわしながら とても笑顔でいた

するとカナは 縮こまりながら晴輝の方を チラチラと見てきた

『…何?』

「いや、なんでも――」

高くて 女らしい声が 彼女の女らしさを引き立てていた

「てかさ、今日サボるっしょ?」

『当たり前だろ』

晴輝が答えた瞬間 雄一は 激しく喜んだ

しかし 雄一が喜んでいる姿を見向きもせず 晴輝は貯水タンクの裏に向かって 腰をおろした

鳥の声

吹き抜ける風

照らす太陽

眼下にある校庭

ここの景色が 1番落ち着くんだ

人と話すことよりも 町を歩き回ることよりも ずっとずっと こっちの方が好きだ

――ここは 俺が俺でいられるところだ…

そんなことを考えながら まぶたを閉じた

「なんでみんなのところに行かないの?」

晴輝のとなりに カナも腰をおろして聞いてきた

『――…別に、1人が好きなだけ』

「1人が好きかー。それ、カナもあるかもー」

風に流されて カナからいい香りがした

――香水か?

なんだか 甘くて だけど鼻にかからない 優しい香り

基本的には 晴輝は香水を嫌うのだが 彼女の香水は 嫌ではなかった

『あるなら、別に俺の隣じゃなくたって――』

「そうなんだけど…お互い、趣味が合うもの同士…仲良くしたいなーって思ったの」

――仲良く…

その言葉に 晴輝は『ごめん、やだ』と即答で答えた――

「ぇ?」

カナは 呆気に取られた顔をしていた

逆に 晴輝の瞳は 彼女にきつい眼差しを向けていた

『俺は、女が大嫌いだから。仲良くとか、まじ考えられない』
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