キミを唄う...

夜は ますます深くなっていった…

親父は 帰る準備を始めた

晴輝も その手伝いをしていた

しかし 真由美は手伝わないで 彼のことだけを見つめていた

「…なんで気づかないのかなー…」

遠い空に向かって 手を差し出した 真由美

届きそうで 届かない…

伝わりそうで 伝わらない…

この空との距離感は

真由美と好きな人の隙間に似ていた

「こんなに遠いのかなー…」

――そう思うと 胸が苦しくなっちゃって 辛いよ…

――高校生と小学生の恋なんて 釣り合わないことなんか 誰よりもわかってるよ…

――それでも 好きになっちゃったんだ…

真由美は また 晴輝の方に目を向けた

重そうに 車に楽器や楽譜たてを運んでいる

「お願いだから…気づいてよ…」

こんな辛い思い…嫌だよ…

そして 深い深い夜は 幕を閉じた…











前日より体を凍らせる風が 晴輝の体の周りをまとわりつく…

彼も今シーズンで始めて マフラーをしての演奏

時計台の時間は 7時を過ぎていた…

「んじゃ父さんは、駅ビルの店で食いもん勝ってくるから」

そう言葉を置いていって 駅に近づくたびに 親父の背中が小さくなっていった…

赤々としてくる掌に 優しく息を吹きかけた

『うー…さびぃ…』

それでも晴輝は また完成していない曲の続きを作り始めた

ギターの弦を弾くたびに 指が切れたような痛みが走る

しだいに 感覚まで消えそうだった

『時には苦痛だけ残し… ここはドの音がいいかなー…?』

簡単ではない音調節を 真剣に行った

――くそっ…指が思うように動かねー…

そんなことを思いながらも 弦を弾いた




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