キミを唄う...
『おい、癖毛』

「――…っ…ぐす…」

彼女は まだ泣いていた…

家庭の問題で ひどく悩んでいるようだ

それに 股や腕 そして額にあるアザが 虐待の跡なのかと思うほど 無数にあった

――それでも…俺にとっては…

『あんたが羨ましいよ』

彼女は “信じられない”って顔をしていた

しかし 除々に目つきが悪くなってくるのがわかった

「あんたには…この辛さなんて…っ」

『でも…』

晴輝は 近くにあった手すりにぶら下がって…

『そんな奴でも…親はいるんだろ?』

俺には 母親がいない―――…

物心がついた時には 親父と2人でいた
最初は「母さんは…死んだ」って聞かされていたけど… 本当は 母さんが俺らを捨てたんだ…

仕事ばっかりの親父に 愛想が尽きたんだ

よくある話だ

でも…母さんは俺を連れて行かなかった…

理由は “俺が親父にそっくりだったから”だ―――…

それだけだ

俺も母さんに 嫌われたんだ…

今ではもう そこまで辛くはないけど… 思い出すと やっぱり胸が締め付けられる
晴輝が 彼女の隣で ボーっとしながら空を眺めていると―――…

「こらっ!」

『――…いっつぅ…』

デコピンをされたところが つーんっとした痛みがはしった

「慰めてるんじゃなかったの?」

『は!?』

――俺…慰めてたのか?

そんなことを考えながら『うーん…』と あやふやな回答をした

「急に会話がなくなるんだもん…」

『ご…ごめんな』

「でもね…あんたと話してたら…だいぶ落ち着いた……ありがとね」

気の強そうな性格からは 想像もしてなかった「ありがとう」の1言…

そのときに 一瞬見せた キレイな笑顔

――ドキン…

今まで冷え切っていた体も なんとなく温かくなってゆく気がした
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