キミを唄う...


彼女と話していると 親父が笑顔で返って来た

「寒いなー…ほら、おでん買ってきたぞっ」

親父の袋の中から 白く 透き通った湯気が晴輝の喉をならせた

『やっべ…超うまそー…』

「お嬢さんも食べるかい?」

味が染みているあっつあつの大根を頬張る晴輝の姿を まじまじと見つめていたのがばれてしま
った

「…でも」

「へーきだよっ…はんぺん食うか?」

真っ白なはんぺんが 真っ白な湯気と交じり合って とってもおいしそう

「いいんですか…?」

「もちろん」

親父は 快く迎えてやっていた

俺も つい『来いよ』と 呼んでしまった

「…じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます!」

ニッコリと笑う親父は 袋の中から もう1つのおでんを出してくれた

「どーぞ」

ふたを開けると 真っ白な湯気が顔いっぱいに広がった

その時の彼女の表情は 今でも忘れられない

瞳の輝きが違った…

「いただきまーす!」

勢いよくはしを割ろうとしたら うまく割れなかったみたいで ちょっぴり落ち込んでいた

――意外にこいつ…可愛い…

―――ドキン…

「あつい」と言いながらも頬張る彼女の姿に 晴輝の目は奪われてしまっていた

彼女が1番おいしそうに食べていた“餅きんちゃく”

それを晴輝は 彼女の皿の方に 移してくれた

「…いいの?」

『別に好きじゃないし』

本当は 大好きだったんだ

でも意地を張って 大好物を上げてしまった

それでも “後悔”という2文字は どこにもなかったんだ

するとまた 彼女の表情は 笑顔に染まってゆくのだった



夜が深くなってきた…

塾帰りの中学生や 仕事から帰宅する大人が この場に集まってきた

彼女が 俺と親父が演奏する姿を 隣から見届けていた

親父が着て来ていたコートに包まりながら…

「いい曲だなー…」

バラード系の 落ち着いた曲

ギターの音が 耳に入るたび 彼女の心臓の音が大きくなっていった

“心を奪われる”ってこうゆうことなのかな?

晴輝が楽しそうに歌う姿を 目で追っていた

本当に笑顔で 歌う事が大好きって顔をしていたんだ…
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