キミを唄う...
時計台の時間は 9時を過ぎていた――…
癖毛の子は 相変わらず晴輝の歌を 温かい笑顔で聞いていた
『おまえさぁ、帰らなくていいん?』
「ぇ?――」
彼女は 目を大きく開いて すぐに時計台を見上げた
今の時間に気づいて「やば…っ」と慌てていたんだ
『へーきか?』
「う…どうだろ…――」
晴輝は 深い溜息をついて 親父のもとに向かった
そして 彼女のところに戻ってきたんだ
『送る』
彼女は 大きく左右に首を振りながら 断った
『何言ってんだよ?早く行くぞ――』
晴輝は すたすたと歩き始めた
彼女は 親父に軽く頭を下げて 俺について来た
「全く…晴のやろーは素直じゃねーなー」
親父は 軽く微笑みながら また煙草に火をつけて 演奏し始めた
その直後のことだ…
真由美が走って路上ライブのところに来たんだ…
辺りを見渡して 親父に「晴輝は?」と 期待に満ち溢れた目で聞いたんだ
「晴はー、女の子とどっかに行っちまったよっ」
おちょくるような親父の表情…
しかし 亜由美の手から スクールバッグが離れた
「あれ…大丈夫かい?」
目の前が 真っ白になった
真由美の頭の中には“不安”と言う3文字が 刻み込まれた
「は…晴輝が…――」
――…晴輝