Voice
ふと客席二階に目をやると一番来て欲しくない彼女が居た。
「…お前の彼女来てんじゃん」
ファンに聞こえないくらい小さな声で優斗が呟く。人の気も知らないで…
恵美がライブに来たら必ず見てるのは俺じゃない。悲しそうな顔で…優斗しか見てないんだけど。
意識を一瞬でそこに持っていかれた。
優斗の彼女の深亜が恵美と、話していたから。泣きそうな顔をして作り笑いを必死に浮かべる恵美が見える。
止めて。優斗の事なんて考えんな…
「愛してる」
思わず俺は曲の間奏の時にそんな事を口走ってしまっていた。ファンの子が一気に叫び声をあげた。
恵美を見ると……悲しそうに瞳を歪ませ
ただジッと俺の方だけを見てきていた。…何でそんな悲しそうな顔をするの?
――終わり、だと思った。