Voice

ふと客席二階に目をやると一番来て欲しくない彼女が居た。

「…お前の彼女来てんじゃん」

ファンに聞こえないくらい小さな声で優斗が呟く。人の気も知らないで…

恵美がライブに来たら必ず見てるのは俺じゃない。悲しそうな顔で…優斗しか見てないんだけど。

意識を一瞬でそこに持っていかれた。


優斗の彼女の深亜が恵美と、話していたから。泣きそうな顔をして作り笑いを必死に浮かべる恵美が見える。

止めて。優斗の事なんて考えんな…


「愛してる」

思わず俺は曲の間奏の時にそんな事を口走ってしまっていた。ファンの子が一気に叫び声をあげた。

恵美を見ると……悲しそうに瞳を歪ませ


ただジッと俺の方だけを見てきていた。…何でそんな悲しそうな顔をするの?


――終わり、だと思った。

< 6 / 30 >

この作品をシェア

pagetop